HSReplayの各統計量について考える-その2

導入

前回の記事では書ききれなかったことや、新拡張に合わせて登場してきたデッキなどに焦点を合わせてHSReplayを見ていく。

(前回の記事) sylvester5678.hatenablog.com



前回の振り返り

かなり間があいたので、少し振り返る。

HSReplayでは、いろいろな統計量を見ることができるが、特に個別のデッキのページに着目し、そこに表示されている各統計量について考えて、特にDrawnWRについて調べた。

例えば、DrawnWR(ドロー勝率)が、カードの強さの評価としてMulliganWR,PlayedWRよりも適していることを述べた。

また、カードごとの性質によって、必ずしもDrawnWRの大小という紋切型の評価を行えないことを指摘した。例えば、守護獣と獣ミニオンがそれに該当する。

(さらに詳しくは前の記事をどうぞ。)

考察

以下、考察を行う。考察の内容はその節のタイトルに沿ったものになっている。

実質的コストについて

DrawnWRを各カードの強さの指標として用いるならば、それが低いカードが弱いカードということになる。一方、DrawnWRは高コストのカードほど低くなる傾向がある。これを実質的コストという側面から考える。

実質的コストは、説明のために便宜的に導入する用語で、使用率がピークとなるターンのマナコストであると定義する。

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財宝荒らし(公式サイトより引用)

ここでは、「財宝荒らし」を例に考える。「財宝荒らし」のマナコストはもちろん4だが、下に示したように、ターン別使用率のピークは4ターン目にはない。このとき、「財宝荒らし」の実質的コストは7である。

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財宝荒らしのターン別使用率(https://hsreplay.net/cards/55400/hoard-pillager#tab=turn-statistics)

このように、表示上のコストと、実質的コストにずれが生じるカードが存在する。例えば、「クエスト中の冒険者」、「メタルの神E.T.C.」などがそれに該当する。他にも多々存在する。

DrawnWRは、使われないターンが損失になるので、試合ターンの短いアグロ、ミッドレンジのデッキでは、実質的コストの大小がDrawnWRの高低に大きく影響することがある。実質的コストは、個別のデッキの統計では、Turn Played(使用された平均ターン)が同じような役割を果たす。実際の例を見てみる。

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欠片デーモンハンターの統計

欠片デーモンハンターはサーチカードを含まず他より均質にドローされるので、これを例に見ていく。

すると、DrawnWRの高低とTurn Playedの大小に相関があることが見て取れる。一方で、「グルダンの髑髏」、「魂剪断」など、その傾向から外れているカードもある。このように、カードを入れ替えることを検討するとき、DrawnWRがもつ一般的な傾向を把握した上で、そこから外れているカード、今回の例では「魂剪断」が入れ替え候補になりうる。(「グルダンの髑髏」は、逆に強すぎて傾向から外れている。)*1

まとめると、以下のことが分かった。

DrawnWRは、特にアグロ、ミッドレンジデッキにおいて、そのカードが平均的に使われるターンに依存してその大小の傾向が決まっている。この傾向から外れているカードは、強いまたは弱いカードであることが多い。

サーチカードとDrawnWR

ここまでの議論では、どのカードもほぼ同じ確率で引いていることを前提としていた。しかし、デッキによっては、特定のカードをサーチすることでデッキを成立させているものがある。これらのDrawnWRは上で述べた傾向から外れてしまう。これについて見ていく。

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ほうきパラディンの統計

例としてほうきパラディンを見る。ほうきパラディンは、「サルヘトの群れ」によって体力1のミニオン、「戦利品クレクレ君」、「ペン投げ野郎」、\cdotsなどをサーチし、それによって戦略に一貫性を持たせるデッキである。

前節によると、低コストのカードはDrawnWRが高くなる傾向にあるはずだが、体力1のカードはむしろDrawnWRが低くなっている。これは、他のカードよりもそれらがドローされやすいことで、DrawnWRがそのデッキの勝率に近づいていることに起因する。*2

勝率に近づく理由として、DrawnWRは、{\rm{DWR}}= \frac{\text{(引いて勝った回数)}}{\text{(引いた回数)}}  で定義されるが、引いた回数が試合数に十分近ければ、勝率に近い値に収束することが挙げられる。

DrawnWRは、そのデッキがカードを引く枚数の多寡によって平均値が変化する。それについて、直感的なイメージで考える。

カードAが30枚入ったデッキで200試合行い、勝率が50%とする。勝ったときに平均20枚カードを引き、負けたときに10枚引くとする。
このとき、カードAのDrawnWRは、{\rm{DWR}} = \frac{\text{(引いて勝った回数)}}{\text{(引いた回数)}} = \frac{20 \times 100 }{20 \times 100 + 10 \times 100} = 0.66 \cdots となる。

つまり、勝った試合と負けた試合でドロー枚数に差のあるデッキでは、DrawnWRの平均は勝率と一致しない。勝った試合のドロー枚数が負けた試合よりも多いとDrawnWRは勝率よりも高くなり、逆も同様である。*3実際には、カードは少なくとも十数種類入っているがそれぞれについて同様に考えれば、同じ結果を得る。

ほうきパラディンは、ドロー枚数の多いデッキなので、平均値は勝率よりも高くなる。実際、統計を見るとDrawnWRは全体的に緑色になっている。一方、サーチされるカードは、そのDrawnWRが勝率に近づいている。二つが重なって起こった結果、体力1のミニオンのDrawnWRが低く見えている。

ドロー枚数の多いデッキは、その勝ち筋がドローがよく進むこと(クエスウォーロック、ほうきパラディンなど)や、試合を長引かせること(典型的なコントロールデッキ)なので、逆にドローが進まない展開では負ける可能性が高くなる。従って、先に述べた勝った試合と負けた試合のドロー枚数の差が生じる。逆にアグロデッキは、試合が長引く(=ドローが多い)と不利になることが多いので、同様に差が出ることで、DrawnWRが勝率と一致しない。前記事の「デッキタイプとDrawnWRの色」の節を参照すると、より詳しく書いてある。[12/27 21:00 補足]

~この説明がわかりにくい方の為に~

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ピュアパラディンの統計

割と近いリストであるピュアパラディンのDrawnWRを見ると、全体的に黄色が増えていることが見て取れる。これは、ピュアパラディンのドローが弱く、DrawnWRの平均が勝率よりも下であることを意味する。平均試合ターンが1ターン程度の差であることを考慮すると、ドロー枚数がDrawnWRによく効いていることがわかる。

TIPS

ここでは、重要度が低いものの、HSReplayを眺めていて個人的に興味深かった話題をいくつか書き並べる。

一枚入れるか、二枚入れるか

コンボローグは、「クエスト中の冒険者」を1枚入れるリストと、2枚入れるリストが共存しているので、そこを比較してみる。

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コンボローグの統計(比較)

これらを見ると、「クエスト中の冒険者」のDrawnWRの順位が、2つで異なることがわかる。一枚採用のときのほうがDrawnWRの順位が高い。この違いの原因は何だろうか?

「クエスト中の冒険者」は、他のカードと合わせて使うことで強力になるカードであり、これを2枚引いてしまったとき、両方を十分に活用するのは難しい。つまり、2枚引いてしまう場合のマイナス分でDrawnWRに若干の開きがあると考えた。実際は、2枚入れると1枚引く可能性も上がるので、1枚にした方がよいということにはならない。*4

この考え方は、他の場合にも用いることができる。例えば、レジェンドは一枚しかデッキに入らないので、役割がかぶっていなければDrawnWRが若干高く見えるかもしれない。

動きの一貫性とDrawnWR

上では、サーチされるカードのDrawnWRが勝率に近づくと述べたが、別の例ではどうなるかを見るために、進化シャーマンを見てみる。

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進化シャーマンの統計

これを見ると、「ボグスパイン・ナックル」のDrawnWRは勝率に近づくどころか、勝率よりも高いDrawnWRになっている。ほうきパラディンの場合は、サーチされるカードのカードパワーが著しく高いわけではないが、進化シャーマンの場合は、武器を引かなければただの弱いデッキになってしまう。つまり、見方によれば武器関連以外を引くことが損失になりうるほどに、武器からの動きに依存していることが見て取れる。*5

別の場合として、「伝承守護者ポルケルト」を見る。

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ハイランダーハンターの統計

上同様、一般的な傾向に逆らって、高コストのカードのDrawnWRが高くなっている。これは「伝承守護者ポルケルト」から続く強力な動きに含まれるカードがそれによってDrawnWRを高められていることに起因する。

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アグロデーモンハンターの統計

別のポルケルトを採用しているデッキとして、アグロデーモンハンターを見る。ハイランダーハンターとは対照的に、「グルダンの髑髏」、「異端者アルトルイス」等もそれほどDrawnWRは高くない。これは、ポルケルトから髑髏へ接続したときに、最終的に2コストのカードまでドローがつながり、それら全体でポルケルトの恩恵を共有するので、ポルケルトの寄与が特定のカードに現れにくいことに依る。

MulliganWRとキープ

マリガン関連の情報は、MulliganWR(マリガン勝率)とKept(キープ)の二つなので、それぞれの高低で場合分けをすれば、以下の4通りになる。ここでは、MulliganWRが高いか低いかの境界を表示上の色が緑か否かとする。

    考えられる4つのパターン
  1. MulliganWRが高く、Keptも高い
  2. MulliganWRが高く、Keptは低い
  3. MulliganWRが低く、Keptは高い
  4. MulliganWRが低く、Keptも低い

4通りそれぞれについて考える。

<MulliganWRが高く、Keptも高い>

一般的に、低コスト(1~2)のミニオンが該当することが多い。たいていのプレイヤーがキープし、実際に勝てているということなので、考える余地はない。

<MulliganWRが高く、Keptは低い>

これは、いくつか可能性が考えられる。例えば、セットキープされる場合、サンプル数が少なくたまたま勝率が高く見えている場合などである。後者については、キープしてはいけないという意味ではなく、「キープしてよいかわからない」ということがわかったということである。*6

<MulliganWRが低く、Keptは高い>

たいていのプレイヤーがキープして、勝てていないカードということになる。これもいくつかの可能性が考えられる。例えば、単に最適でないキープの場合や、他のカードより不利マッチでキープされて勝率が下がっている場合(いわゆる選択バイアス)などである。

<MulliganWRが低く、Keptも低い>

これも、単に最適でない場合や、サンプル数に起因して低く見えている場合などが考えられる。

サンプル数と条件の兼ね合い

理想的には、サンプル数が無限に多くそれを見てマリガンを考えればよいが、実際にはサンプル数の問題で参考にしにくい場合がほとんどである。参考にできない場合を、HSReplay上でサンプル不足の注意マークが出ている場合に限定しても、例えば「対戦相手のクラスを選んで、先攻・後攻を指定して、ランク帯を指定する」ぐらいの実用的な設定を課すと、たいていのデッキではサンプル数不足の問題が生じる。

また、対戦相手のクラスを選んでも、そのクラスに複数のデッキタイプが存在するなら、参考にできない。その場合は、他のクラスで似たようなデッキタイプが存在し、それ以外のアーキタイプがそのクラスにないなら、それを参考にできる。

セットキープについて

実戦的な内容なので、特定の対戦の統計を見ながら考える方式をとる。HSReplayは、どのカードをどうセットキープしたのかについての情報は一切ないので、見えない情報については、経験やデッキガイド等で適宜補うべきである。

対シャーマンのコンボローグについて詳しく見てみる

シャーマンは現在ほとんど進化シャーマンしか存在しない。コンボローグは最近登場したデッキで、対シャーマンについては、進化シャーマンのみと考えても差し支えない。

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対シャマ:先攻の場合

まずは、先攻の場合を見る。無条件にキープすべきカードは、「エドウィン・ヴァンクリーフ」、「ファラオの愛猫」、「死角からの一刺し」、「ペテン」位までで、後は個別に見ていく必要がある。*7

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1枚の場合

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2枚の場合

上の2つのグラフは、それぞれの状況で、あるカードがマリガンの候補であったとき、それに合わせてn枚(横軸)のうちのいずれかが手札に来る確率を示したものである。*8

例えば、デッキ30枚が、カードX2枚と、他28枚で構成されているとして、先攻で5枚セットキープしたいカードが存在するとき、その3枚の候補にカードXが含まれていて、かつセットキープしたいカードが少なくとも1枚含まれる確率は約33%であるとわかる。

今回はこれを援用して、セットキープの候補がどのようなカードか、また何枚程度であるかについて推測する。そもそも、表示上のキープは条件を満たしたプレイヤー全体であって、その全員が同じキープ率であることを意味しないが、おおまかな目安としてこれを用いる。

例えば、「段取り」に注目する。これのキープ率は約33%なので、5~6枚程度がセットキープの候補になっていると考えたとする。そうすると、「エドウィン・ヴァンクリーフ」、「クエスト中の冒険者」、「ペテン」、「悪党同盟の悪漢」などとセットキープされうる可能性が思いつく。

ここで問題になるのは、「悪党同盟の悪漢」である。これは、対シャーマンで最低のDrawnWRであり、それは、相手の進化の動きに対してカードの強さがあっていないからだと考えられる。つまり、この対戦では「悪党同盟の悪漢」よりも、もっと序盤に強力な「エドウィン・ヴァンクリーフ」などを探しに行かなければいけないということになる。

次に、後攻の場合を見る。

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対シャマ:後攻の場合

今回は先攻のそれに加えて、「狐の騙し屋」までが無条件キープの候補に見える。根本的に、全体的にMulliganWRが高くなっていることも見て取れる。エドウィン等を引きやすくなっている分や、コインと合わせて動きやすくなったことなどが原因として考えられる。

例えば、「クエスト中の冒険者」に注目する。これも上のグラフに従えば、5~6枚がセットキープの候補になる。例えば、「影隠れ」、「死角からの一刺し」、「段取り」などがセットキープの候補になりうる。

別の問題として、「エドウィン・ヴァンクリーフ」と同時に来たときにキープされない分を考慮すると、もう少しセットキープの候補を増やして考えてもよいかもしれない。

このように、各カードについて、MulliganWRとキープ率から、セットキープ、およびその候補の吟味をおおまかに行うことができる。*9

ランクセクションごとの変化

プレイヤーの実力と、マリガンの変化を見て、上の議論の妥当性を検証する。

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ランクセクションごとの比較

同様に、対シャーマンでランクセクションを変えたものを二つ示した。

一般に、レジェンドのプレイヤーの方がダイヤモンドのプレイヤーよりも適切なマリガンを行っているとするなら、キープ率の変化に注目すべきである。ランクが上がるごとにキープ率が増えていって、かつMulliganWRの順位も著しく下がっていないなら、それはキープすべきカード(セットキープ含)である可能性が高いし、逆に、キープ率が下がるなら、それはキープすべきカードでないのかもしれない。

例えば、「ワンド泥棒」のキープ率が下がっていること、「死角からの一刺し」、「悪党同盟の悪漢」のMulliganWRが下がっていることなどから、これらはキープしない方がよさそうに見える。逆に、「影隠れ」はキープ率が同じでMulliganWRだけが上がっているので、最適なマリガンで勝率を上げられるカードかもしれない。*10


最後に

需要がどの程度あるのかわからないのですが、拡張毎に1回程度を目安にこのくらいの分量で記事を投稿できたらいいかなと思っています。

誰かからのフィードバックは、励みになったり、記述が不明瞭な部分を改善できたりと自分も助かります。ということで、質問や、不明な点があったら、遠慮なくtwitter上で聞いてください。


*1:ナーフされたデッキですが、例として一番ふさわしいと思ったのでこれになりました。「魂剪断」は、他の欠片シナジーのカードとの兼ね合いの問題があり、これを抜くと他のカードのDrawnWRが下がるはずなので、それが妥当かは実際にリストごとに比較する、回して確認するなどが必要です。

*2:厳密には近づく値はデッキの勝率ではないはずですが、あくまで寄与のイメージとその大小が必要な情報なので、今回は深く考えないことにします。

*3:前回も説明したのですが、今回も必要なので説明しました。

*4:他の可能性として、単に確率的なゆらぎがそう見えさせているというのもあります。二つを比較したときに、「クエスト中の冒険者」以外にもDrawnWRが1~2%異なるものもあるので。

*5:武器が引けた場合と引けない場合の重み付き平均が勝率になっていると考えれば、明らかな帰結かもしれないですが

*6:この「わからないことがわかる」はけっこう大事な気がします。結局知らなかった手を知ることは一つの目標で、それを実現するために必須の情報なので。

*7:個人的には、「死角からの一刺し」すら若干怪しい気もします

*8:シミュレーションして計算したので、若干理論値とずれている可能性があります。 www.dropbox.com

*9:一応、上のグラフをすべて一枚に合わせたものも置いておきます。重なって見えにくいので、2つに分割しました。

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上の2つのグラフを重ねて表示したグラフ

*10:余談ですが、キープ率の低いもののMulliganWRがばらついているのも確認できます。